茶栗鼠の映画評論 応募完了!明日から映画評論!

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応募完了!明日から映画評論!

 さて、こんにちは、茶栗鼠です。 
 とにかく、記事を書いておこうと思ったのですが、明日の真研模試に備えて、夜更かしができませんので、映画評論は明日からにしてみます。
 期末考査が始まったら、一旦、また中断せにゃならん、かなり不規則なあれですが、勘弁してください。
 今日、日本ホラー小説大賞:短編賞の応募が完了しました。

 あの、絶対評価の新鋭どもが入選されるあの賞にです。
 大賞は500万、短編は100万円となっています。
 
 これだけの文だと、ブログが寂しいので下に、一応、小説を置いています。
 よかったらどうぞ( 拷問、透視、テロ、拷問、理不尽、 が好きな方のみですからね?)
 
 誤字、脱字があれば、控えめにどうぞ・・・・・。
首から上を固定するのは難しい。背もたれが肩の高さまでしかないからだ。
だから、歯を折る時にはハンマーを使う。ただ叩けばいい。
舌を切ると、とうとう新垣くんは目をくっきり見開いて、口から血を流しながらうめくだけとなった。床に血が落ちた。また新たなシミが張りついたようにみえる。アアアアアアアアアアア、とただ傀儡のようにうめく姿が、壊れていて気味がわるい。こんなときにだけ、呪いだとかを信じてしまいそうになる。だがこれまで悪夢にうな魘されたこともないし、枕元に亡霊がでてきたこともない。それらのことも感じられないほど、自分は壊れてしまったのだろうか。
床におちた舌と歯を、彼の足元のタライに入れる。
己を縛っている椅子を壊さんばかりに暴れていたのも、そう続かなかった。とはいっても、両太腿、両手両足、首、胴体、ほぼ全身を登山用ロープでまかれているから、そうそう身動きなんてとれない。
彼は彼女の心配ばかりしていた。だがそれがこちらの嗜虐心を増加させているとは、分からなかったらしい。
 残りの作業は、髪を削ぎ、爪を剥ぎ、内臓の内容物を吐かせ、生殖器を切り落とすだけだ。いつものように手が汚く思えて、手首から上を切断するとしても、爪を剥がないことはなかった。
 最後に生殖器を切り取るのは、どうもいただけない。もし女なら舌を抜く勢いで、できたのだろうか、と思う。音も耳障りだし、臭いも鼻腔を抉るし、噴出す液体も妙に気色悪い。
 彼の髪をひっぱる。顔が怯えている。それでいて憎んでいる。表情にはでていない。しかし黒々として眼には、れっきとした憎悪が渦まいている。
これまで人を憎んだことは少ないものだから、どれだけ憎まれてもあまり怖くない。
 髪をひっぱり、天井を仰ぐ体勢にする。横のトレーにおいたビンをとる。
 そしてその、穀物酢と、塩と、醤油の入ったビンを一気に口へ押しこむ。
 歯と舌がないので吐きだせない。歯茎だって、もう入れ歯もさせないほど、壊れているだろう。髪をひっぱっているし、顔を定位置にもどそうとしてもビン喉を圧迫する。
舌と歯があった部位に激しい痛みが走る。
 それは彼の、噴出しそうな眼球で、必至のことだった。すぐに目の血管が充血した。口をきけなくても、生命があぶない時の音はだせるらしい。
 鼻息が荒くなり、穀物酢と、塩と、醤油の溶液が鼻から湧きだす。
 ビンの内容物が半分以下になると、体が痙攣を起こした。電気椅子での死刑のようだ。
そこでビンを取りだし、手を離す。後頭部を押さえて前へ突きだす。
 彼は、歯と舌が入ったタライにすべてを吐きだした。胃の中には、消化液があるばかりだろう。
 嗄れきった声で悲鳴をあげる。低い音の悲鳴だった。内臓に響くようだった。
 周囲に胃酸の臭いが充満する。


 十年前、新しい病気が発表された。
『後天性核遺伝障害』。
 この病気は、十一年前、この佐伯市で行われた原子力発電所へのテロが発端となっている。
「イラク平和維持会」は、アメリカへのペシャワール湾加戦に対してひどく憤りを感じたらしく日本へ数回のテロ攻撃をしかけた。そして一度だけ、日本治安維持局が発足する原因となる、『佐伯市・発電所テロ事件』を起こしたのだった。
工作員たちは発電所に侵入し、夜中に冷却塔とタービンを爆発させた。実行犯たちは勿論、死んだ。タービンから漏れた放射能は夜風にのって町へ蔓延してしまった。
死者五十九名。
負傷者百六十二名。
発電所の周囲一キロは封鎖処置が為された。付近の住民は遠くの縁者や、市街のホテルへと向かった。
テロ後、防衛庁と忌まわしき衛生省が、外出禁止令を発した。
三日でそれは解除された。それから外出しない人もいたが、大抵は普通通りの社会に飲みこまれていった。
学校では先生が意味のわからない理由で泣いた。僕は佐伯市の南区に住んでいて、テロの起こった沿岸区とは正反対に位置した。
 近所のテロは僕にとって深刻に考える事柄ではなかった。連日報道チャンネルはそればっかりで味気なかったが、どれだけ騒いでもやはり騒ぎは収まる。
 一ヶ月もすれば、いつものテレビに戻っていた。その時分の僕はいつも呑気で、おしゃべりが好きな子供だった気がする。
 とりたてて得意分野もなかったが、不得意なことも多くなかった。家からでることの少ないインドア派で、よくテレビゲームをしていた。その所為で目が悪くなっていった。
 小学校中学年頃から、テレビはまたテロの話に戻った。ある日、家へ帰ってきてテレビをつけると、レポーターがあのテロの話をしていたのを覚えている。
近年、佐伯市では身体的変異を抱えた子供が顕著にみられるらしい。つまりは障害者が増えたということだった。開業医が何か、当たり障りなく語った。
 テレビには頻繁に、指が繋がった子供等が映されるようになった。症状は様々だった。だがどれも社会的に得をしているようにみえなかった。それに障害者として扱われるようだった。中絶をしておけばよかった、という親まででたほどだ。
 だが、出産しても育てなかったり、保育器で見殺されたりする場合が多数に思える。
 そうして世間は騒いでいった。
でも実際、近くで起こったことなのに、まったく生活に余波がないことが不思議で、尚つまらなかった。
 とにかく世間の喧騒に比例して、ゲームの時間は増えた。ゲームばかりの毎日ではなく、ちゃんと宿題等はしていたから、親は取り立ててきつく注意をすることはなかった。
 だが、五年生になった時、席替えで後ろの席になって、異変に気付いた。視力が落ちていたのだった。
 驚きと当時に、胸が痛くなった。黒板に書いてある文字が分からなくて、全神経を駆使して凝視した。
「う」
 最初は事態を把握できなかった。いきなり深海や空中に投げだされたような気分だった。無重力のような気分だった。視界が変わった。世界が揺れた気がした。
「あ、」
 驚愕は一瞬で悲鳴に成った。
「ああああああああ!ぐアアアアアアアアアアアアア!」
 と、叫んだのは凝視していた最中だった。
 眼球が飛びだしたのだ。
痛みは不思議となく、ただ空中と深海を彷徨っている酔いが頭を占領した。
まぶた瞼を塞いでも、視界は閉じなかった。
 僕は転げ回り、
「助けてくれぇ!誰かぁああああああ!目玉がぁ!」 
 と、叫んだ。
 先生はすぐに僕を病院へ連れていった。
 左右の視界はバラバラだった。右は宙を彷徨っていて、左は眼窩にはまっていた。
「うえええええッ!」
 あばれまわり、視界が激しくゆれる。口から何かを吐いて、そこで気を失った。
 気がつくと病院のベッドで寝ていた。目覚めると毎朝と同じベッドでなかったのが、好奇心をくすぐって嬉しかった。
夜、月明かりがさしこむ部屋で、両目を確認した。
 医師はゲームのしすぎで視神経が壊れた、もう右目の視力は回復しないだろう、といった。でも右目はちゃんと使えた。一番後ろの席にした先生は責められて、違う学校へ行った。
 退院の日、医師が僕の目をみて、驚いた。
 その後、精密検査をして視界がちゃんと戻っていると分かった。
 視力は1.0以下だったが失明していないだけでも凄い、といわれた。
 それから車で家に帰って、眼球が飛びだしたのではなく、視界が飛び出したのだと理解した。何度か練習をして、片目だけが飛出ないようになった。誰かに話したかったが、誰に話していいのか分からなかった。誰か、今にも死にそうな人はいないかと思った。そしてその人に、自分の持っている能力を自慢したかった。自慢せずとも、相手を卑下したかった。
 両親は一連の出来事を話題にすることは少なかった。それ以前に、我家は険悪な空気がそこら中に浮いていて、居心地すら悪かった。
 それから半年ぐらいたった。するとまたテロ事件の余波が、ニュースを覆った。
『後天性核遺伝障害』の発病者があらわれたのだ。彼女はテロ事件の一年後から、能力が現れたらしい。
彼女は能力を使用し、脳漿がぐちゃぐちゃになって死亡した。名前と能力は公開されていない。彼女の顔写真と仮名が、マスメディアを独占した。
『佐伯市・発電所テロ事件』で大量の放射能と濃縮ウランが舞った。
それが遺伝子に異常をきたし、人体に影響を与えた。それは自然現象の無効化を維持すると、カリフォルニア生物大学の名誉教授が発表した。まったく似たり寄ったりで、難しい表現の発表が学会を埋め尽くした。
それから時折、佐伯市で外国人をよく目にする。
彼らは変異者と呼ばれた。当初、人を死に至らしめるような凄惨な力は表沙汰にならなかった為、彼らは暖かい目でみられていた。
だがある日、法律が急遽作られた。一定の危険度を超えれば射殺してもいい、というものだった。世界安全連邦が、変異体の危険性を縷説し、世界的な世論が放逐という形で現れたのだった。気が付けば、僕が小学六年生の頃には、既に殺害された変異者は十一名にもなっていた。
中でも酷かった事例といえば、さかべ阪部きゅうや久弥の事件だ。彼は人の細胞組織を自由に操ることができた。借金を返さない友人に激怒し、その友人の右腕を分解させた。その友人は叫び、彼はとうとう体を全部分解させた。分解された組織があたりに散ったという。運悪く警察に通報され、逃亡中に警察三名、一般市民九名を殺す。そして警視庁の狙撃手に射殺される。
 この事件により、普段から近所付き合いの少ない佐伯市の町は静まり返った。人々は極力相手を怒らせないようにした。道端で人が倒れていても、変異者だったら困るという理由で放置したということもあった。
『後天性核遺伝障害』の及ぼす影響は凄まじかった。凄まじかったが僕には大して影響がなかった。取り立てていえば、五木喜美恵のことだろう。
 それは小学校六年生の二学期の始業式だった。
 彼女は、夏休み中に矢野という他校の生徒と付き合い、セックスをしたと噂されていた。情報通でなくてもそれを知ることは容易だった。
 珍しく、異性の中では五木とよく話していた。それを聞いた僕は、嫌な気分になった。それがショックだったと気付くのに、些か時間を要した。当時、月に一人ていど、変異者が射殺されるか連行されていた。僕は不安だった。夜も眠れないほどではないが、どこかふと、授業中になど思いだすくらいには。
 自分の特異性を知ったうえで、親密になれる誰かが欲しかった。
僕は彼女を旧校舎に呼び出した。そして告白をしてしまった。告白をしたのならまだしも、自分の能力について語ってしまったのだった。語ってしまったのならまだしも、断られてしまったのだ。断られてしまったのならまだしも、殺してしまったのだ。
 怒りが込み上げてきて感情の制御ができなかった、だとかいう、二時間テレビドラマみたいな陳腐な理由ではない。ただ殺さなければならないと思った。告白、の際、彼女に秘密をばらしてしまったからだ。もう少しだけ、慎重さや、注意力さえあれば、殺さずにすんだかもしれない。
ふと頼まれた買い物を思いだすように、反射的に殺したのだった。そこには人間的な感情の一切がなかった。
 旧校舎のいり口で首を絞めて殺した。ちょうど、ポケットに綾取りの紐があった。正面から首に紐をかけて、瞬時にしめあげた。
心臓がばくばくして息ができなった。
遠くのグラウンドで子供達の遊び声が聞こえた。彼らの声が異常なまでに無邪気に聞こえた。
具体的に、何かが欲しかったというわけではない。それは十代特有の感傷だったのかもしれない。親への独立心からくる異性への興味だったのかもしれない。
とにかく僕は彼女の死体を隠した。引きずる時の音が、妙に大きく感じた。
階段を上って四階のトイレだ。汚れていて、落書きだらけだった。彼女を一番端の用具箱に放り込む。僕は五木に対して、特別な感情は消滅していた。とにかく心臓がばくばくして息ができなかった。床に吐こうかとしたが、証拠になることを恐れた。
昼休みが終ると、五木がいないことに教師が気付いた。そこで教師が職員室に向かった。
室内には好奇心があふれた。それに比例して動悸は早まっていた。気絶しないかと視界を塞いだが、気になって旧校舎の四階のトイレをみるのだった。  
五木はモップだとか、ブラシだとか、バケツだとかの上にいた。目を眺めても、ただ瞳孔が開いた黒点があるだけだった。目を開けたまま仰向けの状態で、誰も操っていない操り人形のような体勢でいる。
どこか遠い一点を眺めていた。
先生が慌てた様子で教室に戻り、その日の終礼時まで、変わった雰囲気が教室を包んだ。中には下らない話や、誰かに攫われたというありがちな話も聞こえた。様々な意見がとびかう最中、耳をこらしても、誰も僕が殺したと考えなかったらしい。五木の死体は、旧校舎の四階、トイレの一番端にあるままなのに、誰一人としてその事実を知らない。それが不思議だった。
翌日になって彼女の遺体が発見された。
校長は五木を知らない小学生に、心配いらないだとか、犯人は捕まるだとかと嘯いた。その週は臨時休校になった。
ニュースではペドフェリアなどの、性的倒錯を持った人物が学校に侵入したといわれていた。家でニュースを見ていてそれを他人事のように感じた。
テレビをつけると、元刑事がこれは異常者の犯行だといっていたので、それを信じたくなった。
指紋をとられることもなければ、有力な証言が浮上することもなかった。戦々恐々と部屋にとじこもることもなく、僕は小学校を卒業した。
 この出来事に『後天性核遺伝障害』の影は少ないが、まったく無影響かといえば、そうじゃない気がする。僕は「透視」のせいで、驕り高ぶっていたのだろうから。
 でも『透視』で人を殺すこともできないし、空を飛ぶことも無理だ。あまり人の役にたてないもんだからまったく偉くもないのに。
 それから『後天性核遺伝障害』の影響は収束に向かった。
 だが、僕の生活は比較的に悪い方向へ転がった。父が転勤先で不倫をしたのだった。不倫をしたのならまだしも、その女性を孕ませたのだ。孕ませたのならまだしも、その子供を産ませたのだ。産ませたのならまだしも、その子供を育てるといいだしたのだ。育てるといいだすのならまだしも、母と離婚するといいだしたのだ。新しい息子はもっと父を慕ってくれると信じたのだろう。
 中学二年生ぐらいになると、父の姿は生活の片々に現れなくなった。母はうじうじしていたが、生活費を法的に払わせる契約があったため、生活は安泰だった。
そんな折、母が隣人に食われた。



季節は冬だった。
 隣家の洋風の邸宅に、新しい宿主が引っ越してきた。彼らは気立ての良さそうな人物だった。引っ越してきてからすぐに、引越し蕎麦を持ってきた。家族は父親と娘二人だった。父親は優しい笑顔で、一通りの家族構成を述べ、社交辞令をいって帰った。
 外で会えばにこやかに挨拶をするものの、近所づきあいは皆無だった。どこか遠くの田舎から引っ越してきたのではないらしかった。雰囲気からすれば佐伯市民だと思った。
 当時、僕は受験生だった。高校入試にはレベルの高い公立を目指していた。そこなら、今とかわらぬ平穏な生活が営めそうだったからだ。
 ある日、年末頃に母は消えた。僕は母がとうとう放蕩したかと思った。それから母は帰ってこなかった。通帳もあるし、その通帳には父の育児費が振り込まれていた。家から外へ出たのは母だけだった。
 それから僕は身の回りことを一人でするようになった。部屋には少しばかり乱雑さが露出したが、気にならなかった。料理は近くの総菜屋でまかなった。
そんな冬、出来心で隣家を『透視』すると、ちょうど姉妹が血まみれの姿をみた。地下室だった。大きな洋館だったからその光景に違和感や、恐ろしさはなかった。映画をみているようで、高揚した。その姉妹の画に深く魅入られた。姉妹は、まるで吸血鬼みたく口元に血を滴らせていた。
 僕は受験勉強など忘れて彼女たちを眺めた。
姉妹は仲が良く、大抵は内職をして過ごしていた。
だが一週間に一度、地下室で人間を食べる。その方法は普段の姉妹からは想像できないほど、下品だった。小腸や大腸の物まで溢れかえった。汚物だって混じっているかもしれない。彼女たちは一定の臓物を残している。あまりに残虐的で目をそらした。食事中、姉妹は一言もしゃべらなかった。『透視』では音が聞こえないが、さぞかし不気味な音を立てるのだろう、と推測した。
 どうやら父親が地下室に死体を運んでいるようだった。どこにでもいそうなタイプで、顔は格好いいし、よく背広で外に出ていた。父親の仕事は広告会社勤務で、インターネット上の広告を作っていた。 
 姉妹は一日中家で内職をする。 
 内職が終ればテレビを観たり、本を読んだり
していた。家に誰かが訪ずれることはなかった。
だが彼女たちは暇そうにするでもなかった。
僕は、この姉妹が母を食べたのだと思った。
 彼女たちは美しかった。白い肌に、長い髪。まるでヨーロッパの姫のようだ。
 僕は次第に彼女たちに近付きたいを思った。
 その想いは日に日に強くなっていった。


 ある日、隣人が家を訪れた。
 非常に寒い冬の午前中だ。
「こんにちは」
 彼は無表情な目つきで私を眺めた。
「どちらさまですか?」
 私は普通の応対をしようとする。普通の対応以外は、異常な対応だった。
だが彼は早々とこう告げたのだった。
 門の上に両手をつかんで、もたれかかるような体勢で。
「あなたの家の地下室、ちょっと臭いですねぇ」
 彼はそれだけをいうと、足早に去っていった。どこか卑下にした笑いを含んだような表情をしていた。
 唐突に気が重くなり、門の前にうずくまった。雑草の手入をしていないので、石畳の間から草が生えている。
 曇天の空は今にも雨が降りそうだ。
 車の音もせず、人通りも少ないこの町。だがどこかに誰かがいる。
「どこだ」
 と、私は呟いた。
 どこで犯行を見られたのだろうか。先週、私が地下室で娘たちに提供した肉は身寄りのない老婦人だった。
 今まで幾人を手にかけてきたか分からない。だがしかし、その犯行の一つ一つは計画から成立っているはずだ。
 家の中に入る二人の娘のために、最善を尽くしてきた。綿密に誘拐を行ってきたのだ。
 私は立ち上がり、家へ入る。家の中は暖かく汗が出そうなほどだ。
リビングで、ニカとリズが私の顔を同時にみた。
「誰か来たの?」
 と、ニカがいった
「覗いてたのか」
「::::、ちょっとだけだよね」
 ニカがそういうと、リズも頷いた。
 この家には郵便も新聞の集金もこない。だから彼女たちは好奇心でなんだったのかを、知りたがった。二人とも肩甲骨あたりまで伸ばした髪が邪魔にならないように結んで、悪い姿勢でティーパックを包む内職をしている。
「なんでもない。お隣さんだ」
 私はそう笑った。
「なんて?」
 ニカが、俯きながらそういった。興味があるようで、それを抑えているようだった。顔はみえないがリズもそのような気色だった。
「こんど町内会で話し合いがあるんだそうだ」
「行くの?」
「いや、行かない」
「どんな人だった?」
「ええと」
 少しだけ逡巡して、答えた。
「なんだか、目つきが悪かったな」



 夜、月ヶ瀬家が寝静まったのを見計らって敷地内に入った。全身黒づくめだ。黒のニット帽までかぶっている。
 時折、父親が整理しているが、草は不衛生に茂り、足元の邪魔だ。大きな土地を所有した洋館。
 家の側面に、地下室の窓がある。僕の家と反対側にあった。そこに行く道すがら、なびく草音や、虫の音などに心拍数を上げた。
 ガムテープを、殆ど埋まっているような地下室の窓につける。これを割ってしまうと、何者かが侵入したことは明白になってしまうが、それ以外に仕方ない。
 薄く、雨風を凌ぐためのガラスは、易々と割れた。破片が地下室に落ちる。大方の破片をガムテープから引きはがし、足元に置く。
 地下室は公民館や倉庫のような広さだった。だが空気中には血がまざっていて、その所為で感覚がおかしくなりそうだった。平衡感覚すらままならないのだ。体育館やホールのように感じた。
 できるだけゆっくり床に下りる。床はコンクリート質で橙と茶のまざった色をしていた。平ではなく、小さな凹凸がはっきりしている。
暗くて視界ははっきりしない。
 時折、視界を上に移すが、姉妹も父親も、罪などない人間のように、安らかに眠っている。家の構造があらかじめ知っていた。階段は壁に備えつけられた木製だった。僕は階段脇に備えられたスイッチを押す。
 暗い室内に三個の裸電球が光る。茫洋とした雰囲気だ。
 壁に沿ってパイプが這ってる。そのパイプは天上から床へ伸びていた。水周りの物だろう。
 姉妹はこの部屋で人肉を食す。
 彼女たちはそれを楽しんでいるようすはなかったが、嗚咽まじりに詰め込んでいる様子もなかった。
僕は週、一回ほどの晩餐を眺めていた。顔と首の失せた死体だ。
 年齢は分からない。性別は分かるが、死体としてはまったく意味を成さなかった。
彼女たちはそれを、黒点しかないような目つきをして食んでいた。彼女たちがその行為にふけっている間、眼球を見てみると、実際に瞳孔が大きく開いている。つまりほぼ視界のない状況で食べているという事だった。
 最初は衝撃的だったが徐々になれてきた。僕はこの姉妹に五木が食されるのを夢想した。
 彼女たちも『後天性核遺伝障害』を患っているのだろうか。
 もしそうだとすれば、ぜひお近づき願いたい。自分以外の変異者と会うのは始めてだ。
 そして性的な意味ではなく、親密になりたい。この能力を理解してもらえる異性と出逢いたかった。
 だが彼女たちは陽の光を浴びようとはしない。一日中、内職をしている。内職が大した金になるとは思えないし、父親の稼ぎが悪いようにも思えない。
つまり彼女は極力、外に出さないように育てられているのだ。
まるで現代に生きるバンパイアだ。
 僕は室内をくまなく探索した。床も壁もボロボロだがヒビはなかった。部屋の隅には排水溝らしきものがあり、そこには排水を流せるようだった。
 古代遺跡に閉じ込められたような感覚に陥る。広いのか狭いのか、まったく掴めない。
 僕がこの地下室に入ったのは冒険心だった。上の部屋で安眠している姉妹に夜這いしようなどと考えていたのではない。
 肺を感じるまで空気を吸う。血や、排水にまみれ穢れた場所。そして姉妹の食事の場所。
 それを実際に感じてみたかったのだ。
 そう。
 それだけのことだ。



 昼頃。佐伯市は至って閑散としている。閑静を越えて、ゴーストタウンのような趣だ。。
 道はブロック塀に挟まれ、広くも狭くもない。これほどまでにブロック塀が道を作っている地域は珍しいだろう。
 九時に朝食を食べながら、今日の予定を考えていた。
 家は宗道宗だからと自分にいい聞かせ、独りで侘しいクリスマスを過ごしてから三日たった。安価でケーキが買えるし、並ばずともフライドチキンが買える。そう思うと悪いことだらけでもない。
 受験勉強に励む前に、つい習慣化してしまった隣家の『透視』をしてしまう。
 いつもの日常だ。 
 今日の内職はコサージュ作りだ。
そういえば、小学校の卒業式に胸につけた記憶がある。恐らく中学校でもつけるのだろう。彼女たちのつくったコサージュだと思えば下らない卒業式も、幾分マシになる。それと彼女たちが作ったコサージュをつける卒業生に、些かの嫉妬を覚えた。
 正直な話、好きな人を想ってクリスマスを初めて過ごした。今まで好きな人がいなかったように思える。それは新鮮だったと同時に、好きな人と一緒にクリスマスを過ごしたいという願望に苛まれた。性的な欲求など一切なく、あの姉妹を想って過ごしたのだった。
 五木の事件で、ふと自分の愚かさを想うことがある。拠り所が欲しいと思い、彼女に告白をした。五木が僕を好きでも、それは彼女に告白をしていいことではなかった。健常者の五木を巻き込んでしまった事を、愚かだったと思っている。仮にも僕は変異体なのである。
 二階の自室で勉学の励む。どうも数学が頭に入らなくていけない。
 と、その時チャイムがなった。誰だろうと『透視』してみると、玄関前に黒いスーツを着た男がいた。髪はふわふわで、白髪が目立つ。落ち着いた紳士という印象も、暴力的な会社員という印象もあった。
「はい」
 一階へ下りて扉を開ける。外気に触れた肌が縮まるようだ。
「どうもはじめまして」
 の開口一番の次、
「私はこういう者です」
といって、男は礼儀正しく名刺を差し出した。
 後天性核遺伝障害研究所・副所長
 やくば役羽いずお泉尾
 『後天性核遺伝障害』は、何度もいうように生活にあまり密接な関係がない。だから彼が変異体を確保して研究している人間だと知っても構わなかった。
「これはどうも。ご丁寧に」
 一応、役羽氏の目をみる。紳士的な態度がでていた。
「それで、どんな御用件で?」
「あなたの身の回りに、変異体、つまり『後天性核遺伝障害』者の方はおられませんか?そうであるという確信がなくても、そのような疑問や疑わしい行動があったならご一報お願いします」
 まるで、「あなたがもしガンになった時に助かる保険はありますか?」レベルの質問のようだった。
彼の声は大人らしかった。まったく悪い印象がない役羽氏は善人にみえる。
「さぁ、分かりませんねぇ。近所づきあいが悪いものですから。ええと、分かればそりゃ、警察に電話しますけど」 
 何も知らない風を装う。装うというか、何も知らないと思っているので自然だろう。
「そうですか。保護者の方は?」
 役羽氏はそれが訊きたかったようだった。中坊の子供には会話が一番なのだろうか。
「今、出かけています」
「いつ頃、お戻りになりますかね?」
「さぁ、それも分かりませんね。母はいつも、フラッと外に出ては、いつ帰ってくるか分からないもので」
「そうですか。それでは失礼します。お手数をかけてすいません」 
 彼は微笑むと去っていった。
 僕は玄関に座る。そして後ろへ倒れ仰向けになる。
 役羽氏を『透視』して追う。彼は『衛生省』と車側面に印刷された、白い車に乗った。
 彼は助手席のセカンドバックから、クリップ付きのボードに挟まれた紙を取りだす。『佐伯市・変異体被疑人物』と書かれた紙だった。
 右から、名前、年齢、職種、地域、容疑理由が書かれていた。容疑理由の最たるは、周辺で変異体が確認された、又は過去に変異体の起こした事件に関与しているか、だった。僕と母の名前もある。僕だけがチェック欄に記しをつけられた。
一覧表には十五名ほどの人物が記入されていた。
 ポケットに入れたシャーペンを出す。
 それと同時に車が動く。
 山谷みつてる光輝・28歳・佐伯市西小倉区一・八・十一 グランドヒルB‐102
「クソ」
 車が離れるにつれて、視界がぼやけてくる。
 永田伸治・15歳・伯本朝三・・二十・
「――――――――― !」
 体が痙攣を起こす。筋肉が凝固し、ひどい悲鳴がでる。
視界が戻ってきて、万華鏡のような乱視を引き起こす。さすがに自動車には追いつけないようだった。瞼はなかなか開かなかった。かといって『透視』をする勇気もなかった。
フローリングの床に書いたプロフィールを
暗記する。
ジャージを着て、外にでる。
冷たい空気がさら曝けだした顔に触れる。空は蒼くないが、雨の降る気配ない。
僕は自転車に跨り、グランドヒルを目指した。時折、人とすれ違うことがあったが、それらは大抵が買い物袋をぶら下げていた。
ジャージの中が汗ばんできた頃合に、やっとグランドヒルに到着した。
十階建てで、A棟、B棟に分かれている。Bの102号室は入り口を入ってから、数歩の所にあった。
まず中を透視する。
部屋は生理整頓がなされていた。床にはゴミが多いが視認はできない。
彼は部屋でパソコンに向かっていた。キーボードを打っている。
至って普通の部屋だ。
チャイムを鳴らす。
彼は立ち上がって、何だろう、といった顔でインターホンの受話機を取る。
「はい」
「山谷さんですか?」
「はい、そうですが」
「僕はまかべろくや真壁六夜といいます」
「真壁さん?」
「今、山谷さんは『衛生省』から『後天性核遺伝障』を患っていると思われています。ドアを開けてください。時間がありません」
 彼は受話機を置いて、うつむいた。手で、口を押さえている。吐き気がするのだろうか。
 彼は急いでドアを開け、僕を招きいれた。まだ子供で驚いたような顔をした。
「どういうことなのかな」
 彼は非常に動揺していた。
「いったとおり、あなたには疑惑がかけられています」
「疑惑?」
「『後天性遺伝障害』のことですよ」
「なんで、バレたんだ」
 肺の底からしぼりだすような、無念たらしい声で彼はいった。
「恐らく、能力の特定はまだされていないでしょう。僕も疑惑がかかっているので教えました」
「どうすればいいんだ」
 深刻ぶった声だった。目を合致させ、戦々恐々としている。五木を殺したとき、僕もこんな感じで過ごすべきだったのかも、と思った。
「まぁ、僕に能力をみせてください。作戦はそれからです」
 なんの作戦を練るのだろうか、といった先から思ったが、彼は納得がいったようだった。
 リビングは片付いていた。理知的な人間の部屋のようにみえる。こちらの家は掃除が行き届かいから、床には体毛やら埃が落ちている。
「俺は、過去を見る事ができるんだ」
 硝子のテーブルに対峙するや、彼はそういった。軽く部屋を飛びだしたい衝動にかられたが、辛抱強く我慢する。彼が変態であれ、腕っ節が強いようにはみえない。
「過去を見る?」
「ああ。::::、そうだ!」 
 立ち上がり、彼はトランプを僕に差し出した。
「好きなカードを一枚、どうぞ」
「はぁ」
背中を向けて、なにやら待っている。完全に騙されている気分だ。仕方がないのでカードを一枚ひいた。
「それで?」
「そのカードをテーブルに出してください。表向きに」
「だしました」
「そしたら、それを戻して」
「戻しました」
 というと、大儀そうに振りかえった。またも対峙すると、ジッとテーブルを凝視しだした。心中に疑心などはなかったが、どこか彼に胡散臭さが漂っていた。
「ダイヤの8だ」
 それがまるで寿命のように、彼はいった。
「正解です」
「この能力は過去に起きたことなら、何だって見ることができる。素晴らしい能力だ。江戸だって見てきたよ」
「そこまで遡れるものですか」
「ああ。そうなんだよ。最終的に平安時代がどんなものか見てみたいんだけどね、過去を見詰め過ぎると、戻った時の衝撃が痛くて、やばいんだ」
 語る口調はまるで世紀の大発明を説明するようだった。彼は逐一の言葉が大きすぎる。自分の力を過信して、それで驕り昂っているのだろうか。
「ああ、僕も同じ様なものかな」
 と、いった。
「君は、未来が見えるとか?」
「いや、現在だ」
 そういうと、彼の大袈裟な癖を真似て、トランプを適当に引き抜き、彼にみせた。
「クローバーの7」
 と、僕はいった。
「やっぱり、未来が見えるのかぁ」
「いや、違う。視界を飛ばしてるんです」
「は?」
 自分の持っている『透視』の説明を彼は、うらやましそうに聞いていた。
 すると、
「それじゃ、女風呂も覗き放題じゃないか!」
 という、最終的な結果に達した。
「覗き放題ってわけじゃないです」
「なんだよ。覗きぐらいしたことあるくせに」
「まぁ、片思いの女性を眺めるくらいはしているな」
「あはは。やっぱり!」
 と、手を叩いて笑った。
 彼に何か弁解をしたかったが、何を弁解したいかが分からないので、黙ることにした。



「二人とも、何してるんだ?」
 いつもとは違う雰囲気が、娘たちの部屋から漂っていた。いつもと違うがために、密かな連続しておこる物音が何であるかまったくわからない。冬は毛布にくるまってすぐに寝るのが定説だが、寝室を変えてからの三年間、娘たちの思春期が不安でたまらない。
 母親が居れば、なんて彼女たちに口にできるわけもない。
 こちらがどれだけ心配をしているか、娘たちはしらない。しかし知ったところで、危険を冒す時は、冒してしまうのだ。
 思春期を越えた今、それがもどかしくて、仕方がない。
「ん?」
 と、白々しくニカがドアを開けた。
「どうしたの?」
「なんだか騒がしいんだけど、何をしてるんだ」
 扉を最低限にしか開けていないので、中の様子が窺えない。
「ええと、なんていうか、ちょっと遊んでたの。リズと」
 いつもと違う音調だった。しかも寝巻きではない。夜這いしてきた男と戯れているでもなければ、なんだというのだろうか。
「どうやって遊んでた」
「そんなの関係ないじゃない」
「ちょっと部屋に入っていいか」
「いやよ!」
 と、ニカは嫌そうな顔をして扉を閉めた。私は突如訪れた反抗期に眩暈をおぼえながらも、嫌な臭いに気付いた。
 地下室のような。



「うん。いるいる」
 山谷はリビングで母の姿を確認した。
 彼と出会ってからの数日間は、ほぼ毎日一緒に過ごした。今日は、母の行方を捜しに家にきてもらった。彼は暖かそうな抹茶色のセーターを着ている。
「それ、いつです?」
「あ~と、推定失踪日は二十日?」
「ええ」
「そうだね。合ってる。二十日以降には姿がないよ」
「どうして分かるんです?」
「新聞の日付が二十日になってるから」
 彼はテーブルの上をみる。
「お?なんか、変な顔した」
「にらめっこが好きなんですよ」
「違うよ。変な冗句いうな。なんか、あ」
 いい切らずに彼はリビングから廊下にでた。
「なんか、入ってきてるっぽい」
「なんかって何です?」
「いや、奥さんが玄関をのぞいてる」
「侵にゅ」
 侵入者ですか?と、いい終わるのを待たずに彼は、
「あぁ!」
 と、叫び声をあげた。
「どうしたんです」
 と、いうが早いか、僕は瞬間的に彼の口を押さえた。
「待って」
 暴れようとする山谷。
「あいつが来る」
 怪訝な顔つきをしたが一瞬で誰かを推測したようで、押し黙った。
「『衛生省』?」
「役羽さんです」
「うわぁ」
 彼が騒ぐので外を『透視』すると、役羽氏の乗った『衛生省』と印刷された車があった。あまりに唐突な訪問だった。
「やばい」
 軽めの拘束をといて、『透視』に集中する。
「どうした」
「仲間がいる」
「どれくらい?」
「役場さんと、三人。しかも電気銃みたいなの持ってる」
「尾けられたのかな?」
「多分、そうでしょう」
「すまない」
「いや、それより逃げましょう」
「どこへ?」
「::::::お隣さん」
 一瞬迷ったが、それ以外になかった。
 もしかすると、このような機会を待っていたのかもしれない。後ろから後押ししてくれるような、状況だったのかもしれない。
 窓を開ける。外の、冷えた硬い外気が頬をかすめる。吐息が白くて、絶望的な気分を味合う。彼は僕の後ろをついてきた。縁側に草履が置いてなかった。しかたなく裸足で庭を数歩進んで、塀を越える。後ろからいやそうな、彼の気色を感じる。
隣宅を『透視』すると彼らは親子団欒、リビングでテレビをみていた。
音をたてないように着地する。以前進入した時とかわりない庭だ。正面玄関から入るよりも、やはりあの地下室へ直行したほうがいいと思った。家の周囲を、抱腹全身にちかい体勢でまわる。
 地下室の窓はダンボールが内側から、張られていた。家内には姉妹と父親が、リビングにいる。
「おい」
 山谷が不安そうにこちらをみる。
「ここ、勝手に入っていいのか?」
「いいか悪いかより、入るか入らないかですよ」
 そういって、ダンボールを破る。リビングを『透視』するが、家族はテレビをみている。破かれたダンボールから中に入った。
 地下室には依然として、汚い空気が蔓延していた。もしかするとこの前の晩かあら、窓もない部屋になってしまったのかもしれない。
 鼻のおくに、臭いが詰まるようで、しかも温度が外と変わらないために気が滅入った。
 臭い。
 腐った魚の内臓が変色したような。
 空気が重く、ドロドロしている。すっぱいような錆びた鉄のような。
鼻で息をすると頭が痛い。
口で息をすると舌が痛い。
目を開くと目が痛い。
どれも細胞に染み入るような、粘っこい刺激だ。
「なんだ、この臭い」
「血です」
「血?」
 山谷は最高に恐ろしい言葉のようにいった。
「なんの」
「なんのって、それは、人間の」
 といった。
 彼はすでに色々なことが理解できていないようだった。もしかすると血の臭いで思考回路がくるったのかもしれない。普通ならそうだ。だが彼女たちの晩餐をみている僕には、どこか夢見心地だったかもしれない。
 もう一度リビングをみて、その次に自宅前の『衛生省』の車をみる。彼らは車内におらず、すでに家内へ侵入していた。地下室に侵入しようとした時から警戒を怠っていたから、まったく気付かなかった。
「な。山谷さん」
「うん?」
「さっき、母は何をされたんです?」
「今いうことじゃないだろ」
 実際、彼は滅入ってるようだった。だがそれは関係ない。
「何が起こったかでいいんです」
「いきなり後ろから殴られたんだよ」
「どんなのに?」
「なんか黒いフード付きのローブみたいなの着てた」
「黒いフード付きのローブ?」
 それを想像しようとするができない。とにかく顔がみえないような服なのだろう。
「そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 不意に不気味な声をだして彼は立ち止まった。立ち止まったというよりは金縛りにあったようだった。
「どうしました」
「そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉっぉぉ」
 老婆のいびきのような、断末魔後の声の漏れのような、背筋の硬くなる声だった。
 『衛生省』と上の家族を『透視』したいが、彼が気になって視神経に集中できない。
「おいっ」 
 普通の声でよびかけても彼は反応しない。
「そぉ:::::::::::::::」 
 と、ただ漏らしているだけでいる。そういえば五木もこんな黒点しかない目をしていた。みればみるほど黒しかなく、どこをみているでもないようにみえる。しかしどことなく、何故か思考にはどこか遠くをみていると考えているのだった。
不意に、扉の開く音がした。
地下室の扉だ。 
重い金属と錆のこすれる音をたてた。
 こちらも「そぉぉぉぉぉぉぉっぉ」といって、身動き一つとらないのも作戦かと思った。だがそれで事態が上手くいくとは考えづらい。
 足裏の冷たい床も、熱さを孕んだように、動悸がはやまる。
「誰だ」
 と、父親は静かに、そして警戒心を露わにしていった。
 山谷から視線をはずし、ドアの横にたたずんでいる父親をみた。
「僕は『先天性核遺伝障害保護協会』の真壁六夜といいます」
 とにかく嘘を並べることにした。
「以前、道路を隔ててお会いしたことがありますが、覚えていらっしゃらないでしょう。協会側から、あなた、または娘さんたちが『先天性核遺伝障害』だという報告を受け、調査をすすめてきました。ですが、とうとう『衛生省』に発見されてしまい、みつからないようにここまでやってきました」
 口から嘘八百を並べている始終、いつのまにか山谷は黙っていた。だが顔に覇気はなく、蒼白としている。ありえない話しに思えた。しかし父親は納得した様子だった。
「いつからだ」
 と、慌てた様子で訊いてきた。顔面蒼白でおぼろげな表情のまま、こちらに歩み寄ってくる。
「すいません。今、説明している時間がありません。すぐにここを逃げないと」
「逃げる?」
「『衛生省』の連中が、こちらの向かっています」
「彼は?」
「ん?」
 名演技にも構わず彼は、俯いて今にも泣きだしそうだ。
「以前、ここでなにか残虐なことがおきたことは?」
「ない」 
 そいうなり、彼は歩みを止めた。以前、数回会釈した時の柔らかさは消え去った。
「それなら構いません。彼は能力を使うと時折、このようにフリーズしてしまう場合があります。今日は、『衛生省』のせいで神経を澄ましす」
「お父さん?」 
 初めて、どちらかの声を聞いたのだった。
 冬の冷たい空気はいっぺん、切なさを孕んだ。こちらの気色など感じれるわけもない彼女は、入り口から顔をのぞかせている。父親も同様、好奇心旺盛な娘に煩わしそうな、困ったような表情をした。
「娘さんですね」
 すっかり心得てるような口調でいう。動悸に眩暈を感じつつ、早足で階段を上る。階段は丈夫なできで軋む音がなかった。
 彼女の方は驚いている様子だったが、こちらはもっと緊張していた。リアルでみる姉妹のどちらか(多分、姉)は、まるで想像が現実になったような煌きをもっていた。
「どうも始めまして。『後天性核遺伝障害保護協会』の真壁六夜といいます。今すぐここを離れなければ」
「うああああああああああああ!」
 いきなりの悲鳴だった。怒号だった。
 腰が抜けたようで、よろよろ後ろへ後づさる。地下室にいた全員が彼をみた。
「山谷さん!どうしたんですか!」
 急いで彼にかけ寄り肩をにぎる。
「に」
 と、彼は発作でも引き起こしたように、いった。
「逃げろ」
 そういうと、彼は気を失った。存外、柔な神経な持ち主らしい。鼻血をだしている。
「しっかりしてくれないと」
 と、いったその刹那。
「ここだ。いたぞ」
 と、地下室の窓にいた『衛生省』の職員が叫んだ。
「逃げろ!」
 今度は父親が反射的に叫んだ。
 父親は、娘の元へ走った。僕は山谷さんを心配しつつ、扉へ向かって走った。



「ニトログリセリンのお味はどうだい。::::、そういえば、君にはもう舌がないんだな。
 いや、ニトロって要ったかな?入っているのはグリセリンだと思うけど。まぁ、何にせよ、目薬と同じ薬品だ。僕はあまり飲みたくない。鼻は使えるだろ。臭うか?さっきから、君は順調に腸内清浄化に取り組んでいるんだけどね。どうだ。椅子がどうして丸く刳り貫かれていたか、ようやく分かっただろう?これはおまると同じなんだよ。便秘の診断を受ける為の苦労よりかは、安易に作れた。
 これはネットで120ml×10個を、なんと三千九百八十で買った奴だ。ネット通販だっていうから、バッタモンが来るのを承知だったんだが、呑みやすいと好評で、しかも効果も:::::、今の君には言うも愚か、か。ほら、最後の一口だ」
「ヴぁあああああヴぁッ!」
 120ml使ったのだから、何を食べていようとも、彼の肛門から排泄させるのは、スポーツドリンクのような浣腸液のみになっている。僕は袋の周りに香水をふりかけ、芳香剤と線香を三本置いた。息を止めて、彼の尻と椅子に挟まれている黒いビニール袋を引き抜く。それの口を結ぶ。そしてまた新しいビニール袋に入れる。もちろんそのビニール袋の中にも、消臭剤や、香水がふりかけられている。
「ふー。::::何をみている。::::、これから、どうなるかって?」
 新垣くんは小さく頷いた。
「君を殺す」
 彼の目が、どうして?と訴える。もしかすると絶望に浸ったのかもしれない。どちらにしろ、彼らはみな一定の場合に目の色を変える。
「どうしてかって?そりゃ、愛する人のためだよ」
「ええええうぅ。ええええうぅ。」
「君の彼女のことじゃない。そうだ。君の彼女、最初は誰だった?」
 彼の目をまた覗き込む。生のこの距離が、どうしてだか臨場感がある。もうただ黒点しかないような、目。その目を時々みたくなる。五木を思いだすからかもしれない。
「ヴえぇ」
 剃刀を用具トレーからとって、彼の頭を剃る。
「実はさ、頭の皮を削ぎたいんだ」
 いきなり彼が暴れたので頭に歯がささった。そこから湧き水のように、小さく血が噴きだした。その黒い血はジュワジュワと、止め処なく噴きだして、虫が蠢いているようにもみえる。
 香水やらの匂いで、鼻が麻痺していて、血の臭いがしない。それかこの部屋自体が、血の臭いで充満しているからだろう。
「安心しろ。そこまで残虐なことはできんよ。第一、普段の人なら、殺してからこうやって身嗜みを整えるんだ。
 何故、君はこんな拷問紛いのことをうけなければならないかって?そりゃ、君が嫌いだからだよ。矢野君。君の旧姓は矢野だ。違うか?
 矢野君は五木喜美恵と付きあっていたろ?それで夏休みにセックスしたろ?どっちだ?いってみろ。いえないのか。どっちなんだ?ちゃんと頷かないと分からないだろ。首を縦か横に振るだけだ。違うか?縦か横だ。右か左か、が分からないならまだしも、縦か横だ。
 ::::::::::。
 ::::::::::。
 そうか。なら拷問は続行だ」
「うぅ。うええええェ」
「そうだ。それじゃ、止めろ、っておってみるといい。そしたら止めてやる」
「えあああああああッ、ヴえあああああッ!」
 必至になろうとして、口から息を出すが、噴出されるのは血だけだった。口元は黒い血で汚れている。
「舌を抜くとそんなことしか話せないのか。
 ごめんな。怒りっぽくて。でも、爪は食わせたくないんだ。それと足。お前の足をリズとニカが食べると思うと気分が悪くて吐きそうだ。
 ここで、誰が死んだと思う?いろんな人が死んだよ。
 特に山谷さんを思うと、本当に惜しくて仕方がない。本当に御愁傷さまって思うよ。本当に短い間だったけど、彼は本当に面白い男だった。コミカルだし。それでいて人には優しいんだ。
 僕もね、いつかは優しかった時があると思うんだな。
 そうだな。
多分、この部屋に『旧衛生省』が特攻してきた時だろうな。歯車が狂ったのは、母親が誘拐された時かな。
 『旧衛生省』が、僕を追ってこの地下室へやってきてね。
だが詰めが甘かったよ。
連続殺人鬼と『透視』のできる僕を相手にするのに、たった四人でこられちゃ、困る。だろ?まぁ、結局、お父義さんは死んだんだけどな。
 役羽っていう、陰湿な野朗が、銃で。あの遠距離用スタンガンだったら死ななかった。でもあいつは無意味にお父義さんを撃った。まぁ、正当防衛といえば、裁判じゃ勝てたかもだけど。お父義さんは一週間後に死んだ。足に当たったんだけどね。どうも出血がひどくてね。段々、弱っていくんだ。みている以外、仕方がなかった。病院に連れて行くわけにもいかない。
銃弾を自力で取りだしたんだ。それが致命傷になったんじゃないかな、と思うんだけどね。勿論、それは考えない。彼がいたら僕の仕事はもっと楽なものになってるんだから。
 結局、僕は役羽さんを殺しただけだ。
 ニカとリズの悲しみようっていったら、もう目も当てられなくてね。他人の僕が介入できるような状況じゃなかった。僕も悲しかったよ。ニカとリズの父親なんだからね。
 でも、彼が死んでこその、今の僕だ。
 彼が死ななかったら、今君は拷問紛いのことをされていなかったかもしれない。そう考えると、役羽さんを、ひいては『旧衛生省』を恨めしく思うだろ?
 ああ。
ニカとリズは、君を食べる可憐な姉妹だ。内職を淡々とこなし、時折僕をつれて外へでる。お父義さんは警戒心が強くて、外出もさせなかったらしい。
君、彼女は一人だったよね?羨ましいだろ?こっちは二人いるんだ。まったく以って、維持には最高に疲れる姉妹だが、一旦従えればいいものだね。住めば都ってやつだ。
 なぁ、五月蝿いぞ。
男が泣くな。ボロボロとさ。深夜一時のコンビニに独り、おでん食ってる癖して。なんだよ。お坊ちゃん。
ん?この耳、なんか汚いから、削いでおくね。なんだか穴を穿って、血が固まってる。
だから泣かないでくれよ。最後まできちんと話せやしない。
僕の親父は、最後の最後まで俺をキッと睨んでんだのに。
 まるで僕を敵のように睨んだね。何故、敵のように睨んだかっていうと、僕が敵なら自分が必然的に正義になれるからだろうね。まったく自分勝手にも程があるだろうに。
 うち家の父親はね、家族を放って逃げたんだよ。他の家庭に。
 でも、やっぱり元の家庭いいなんてほざきやがった。そして家の前に車を止めたら、誰かが妻を隣の庭に落としてるんだ。そうして隣宅を観察してると、深夜の地下室で姉妹が肉を食べている。
母が誰に殺されたのか、謎だった。でもね、お父義さんの、「お前の父親も協会側なのか」って発言でハッとしたんだよ。
 父が、この家にやってきたって。 
 それで僕がお父義さんに、家の母親を殺したかって訊くと、違うっていうんだよ。てっきり姉妹に食べられたものだと思ってたのに、いきなり普通の殺人事件に変わったんだ。捜査は難航したよ。
 でね、瀕死のお父義さんが僕に訊くわけだ。「二十日の夜に、娘たちと会ったか?」って。それで分かったんだ。僕の最愛の二人が、母を殺したんだってね。
 まぁ、つまり両親はニカと、リズに食べられたわけだ。
 そんな不思議そうな目をするな。怖がってるのか?僕は異常か?確かに異常かもな。
 ニカとリズが母親を食べた理由?ああ、母親を思い出したから、だそうだよ。それと若い女性を食べたかったそうだ。いつもホームレスばかりじゃ飽きるそうでね。人間の肉もよしあしがあるだろう。
 訊いたんじゃない。聞きたくもなかったからね。気分次第ってやつだね。でもね、お父義さんが死んで、二日ぐらいたったら、ニカとリズは相談して、自分らの生い立ちの一切を、全部、赤裸々に話してくれたんだ。
 彼女たちも同じく、『後天性核遺伝障害』の被害者だ。
 あはははっはは!
 もういないとばかり思ってたか。
 そりゃ、そうだよね。まったく日常とは関係ないんだからな。
 確かに、君にとっては非日常だろうね。でもこちらの日常は日常だよ。非日常っていうのは日常側からみてこそ、非日常なのだしね。
 あのテロから、二年半後に、姉のニカが、生肉を食べだしたらしい。そして妹のリズも生肉を冷蔵庫で食べたそうだ。毎夜、冷蔵庫にあるものを食べていた。でもそれじゃ、我慢できなかった。彼女たちが欲していた肉。それが人肉だよ。彼女たちの能力はね、凶暴化なんだ。
 肉を食べてしまうと凶暴化がおさまる。逆説的に肉を食べないと凶暴化してしまう。ここがローマ時代で、コロッセオに連れてこられた奴隷ならまだしも、ここは技術大国日本だ。まったく役に立たない。それどころか、足枷みたいな変異だ。
 彼女たちは、いわないだろうけどね。多分、ここだけの話、彼女たちは母親を食べたんだ。どうして居ないのかが話題にでてこない。去年、つまり一昨年の冬に引っ越してきたんだけど、どうも変だよ。
 さて、もう毛も剃り終えたし、最終段階に行くかな。」
 トレーから鉈をとる。それで足首から下を切断する。甲高い、野鳥の鳴き声のような悲鳴を新垣くんは、あげた。
目は充血して赤い血管が浮かび上がっている。
 僕は映画みたく、彼の首を抱え込み、45℃ぐらい捻じ曲げる。ボェキボェキとか、グチゅグチゅと音がして、彼は死んだ。
目を覗き込むと、瞳はただ黒点だけになっていた。
意思も意識もない。
どこか遠い一点を眺めていた。
「さて、死んでもこの部屋にいるだろう。魂を信じるのに、僕は人を殺す。リズとニカが喜ぶから若い女性を。お父義さんは子供には未来があるだとかで、老人やらホームレスやらの肉を食べさせていたそうだ。
 殺人が病みつきになったわけでもない。拷問が好きなわけでもない。痛覚を失ったわけでもない。でもな、こうやって人を殺しているとな、自分を見失うんだ。
 それが怖いようで、現実から逃げたい気もするんだ。
 許してくれなんていいたくない。言わない方がいいだろう。許してくれっていうのは悪い事をしたからだ。
 死には意味がある。
 君の死は、ある姉妹の生へと通じる。
 とはいっても、君の生殖器は別だけどね。
 ほら、この登山用のロープ。巻きつけたら、解けないんだ。
 肌にフィットして滑らない。
 近々、道具を作ろうと思う。手で引っ張らないようにするためのさ。
 ようし、それじゃ、ちょっと気味悪いが、仕方ない。
 さん::::、ははは、危ない危ない。君と話してたら、ゴミ捨て袋を忘れるところだった。目を瞑ったまま、アレのついてるロープを持ってうろちょろする羽目になっていた。
 さて、じゃ、気を取りなおして。
さん:::::::::::::::::
に:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::。いち」
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茶栗鼠

Author:茶栗鼠
洋画、海外テレビドラマ、猫について語るブログです。
1992年7月11日生まれ。九州男児。

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